84 狭山丘陵の古狸往生記
山ふところに囲まれた蔵敷のある農家で、養鶏をやっていた頃のお話です。
大変なことがおきました。
毎晩必ず一羽ずつ大切な鶏がいなくなってしまいました。どんなに注意してみても、翌朝見廻ってみると羽一枚残さずに行方不明になってしまいます。
かこいをきっちりとやり直したがそれからも七羽もいなくなってしまいました。
このあたりは水が豊富で二メートルも掘ると良い水が出て、井戸にモーターをつけて汲み上げていました。十月もなかばの朝、モーターのスイッチを入れても動かないので不思議に思い、井戸をのぞきにいってみました。じっと目をこらしてみると何か黒いものが見え、引き上げてみると何と大きな狸が虫の息になっているのです。
首筋から背中にかけて毛並が白く大の字に見え、ころころ太った狸でした。古狸ほどこの大の字がくっきりとするのだそうです。
用心深い狸も、鶏一羽が入った大きなお腹をかかえてついうっかりモーターのコードにつまずいて、井戸にはまったのではないかと……。それ以来鶏をぬすまれることもなくなったそうです。
この古狸今でははく製となり、思い出話の種となって保存されています。
昭和四十六年秋の出来事でした。
狭山丘陵にも昔は狸がたくさんいたそうです。この家の主人がおじいさんから聞いた話では、夜中の十二時過ぎによばわり(夜廻り)すると狸が足もとにまつわりつくほどだったそうです。
ホッ、ホッと十秒位の間をおいてなく狸の声も最近はついぞ聞かれなくなりました。(p184~185)
狭山丘陵の古狸往生記(東大和のよもやまばなし84)
山ふところに囲まれた蔵敷のある農家で、養鶏をやっていた頃のお話です。
大変なことがおきました。
毎晩必ず一羽ずつ大切な鶏がいなくなってしまいました。どんなに注意してみても、翌朝見廻ってみると羽一枚残さずに行方不明になってしまいます。
かこいをきっちりとやり直したがそれからも七羽もいなくなってしまいました。
このあたりは水が豊富で二メートルも掘ると良い水が出て、井戸にモーターをつけて汲み上げていました。十月もなかばの朝、モーターのスイッチを入れても動かないので不思議に思い、井戸をのぞきにいってみました。じっと目をこらしてみると何か黒いものが見え、引き上げてみると何と大きな狸が虫の息になっているのです。
首筋から背中にかけて毛並が白く大の字に見え、ころころ太った狸でした。古狸ほどこの大の字がくっきりとするのだそうです。
用心深い狸も、鶏一羽が入った大きなお腹をかかえてついうっかりモーターのコードにつまずいて、井戸にはまったのではないかと……。それ以来鶏をぬすまれることもなくなったそうです。
この古狸今でははく製となり、思い出話の種となって保存されています。
昭和四十六年秋の出来事でした。
狭山丘陵にも昔は狸がたくさんいたそうです。この家の主人がおじいさんから聞いた話では、夜中の十二時過ぎによばわり(夜廻り)すると狸が足もとにまつわりつくほどだったそうです。
ホッ、ホッと十秒位の間をおいてなく狸の声も最近はついぞ聞かれなくなりました。(p184~185)